業務効率化・生産性向上の気運が高まり、働く人たちの多様化も進む現在。急速に変化する社会環境のなか、企業ではどのように人を育てていくべきなのでしょうか?本連載では、人材育成企業FeelWorks代表取締役の前川孝雄が、先進的な人材育成の取り組みをしている企業のトップと「これからの人材育成」をテーマに対談していきます。今回はコロナ禍で苦しむ航空業界からの出向者受け入れが話題となった株式会社ノジマの取締役兼執行役人事総務部長 田中義幸氏に同社の経営哲学と人材育成についてお話をお聞きしました。
自社の発案でJAL、ANAからの出向者受け入れに取り組む
前川:今日はとても楽しみに参りました。実は10年以上前から、私はノジマさんの人を活かす経営に強い関心を抱いていました。リーマンショック後に苦境に立つメーカーの社員を副業バイトとして受け入れたり、卒業間際でも内定が取れずにいる学生を面接なし・販売実習選考のみで採用する特別枠を作られたり、とにかく多様な人を育て活かそうとする信念のようなものを感じてきたからです。今回のコロナ禍における取り組みにも深い敬意を感じています。御社はこのたびJAL、ANAからの出向者を受け入れたことが話題になりました。まずはこの取り組みの背景や目的について教えてください。
田中:私たちは5つある経営理念のうちの一つに「社会に貢献できる経営」と掲げています。多くの会社でこのような理念は掲げていると思いますが、当社は出店している地域の自治体への寄附なども長く続けているなど、理念をピュアに実践する体質があると自負しています。もちろん、そのためには本業がしっかりしていないとその余裕もないのですが。
そんな中でこのコロナ禍に見舞われ、航空業界、旅行業界、飲食業界などが大きなダメージを受けている状況を見て、私自身「何かできないか」という気持ちがあったんです。そこで7月に社長の野島と話をしているときに、通常の採用とは別に、プラスオンで期間限定の出向者受け入れをやってみたいと提案したんです。
前川:田中さん発案なんですね!
田中:そうなんです。航空会社でリストラが進んでしまうと、コロナ禍が終わったあとに人が足りない状況になり、日本の交通インフラに影響が出る。ですから、一時的に私たちがJALさん、ANAさんの社員の方々を出向者として受け入れ、しかるべき時期が来たらお戻しするということができるのではないかと考えました。それが、今、私たちにできる社会貢献だろうと。以前も不況時にメーカーなど他業界からの出向受け入れはしていましたから。
前川:しかし、通常の採用にプラスオンで短期間だけ受け入れてその後はJAL、ANAに戻ってしまうのでは、御社にはメリットはないですよね。
田中:動機が社会貢献なので、当社のメリットどうこうというのは最初から考えていませんでした。社長も二つ返事で、「それは社会貢献になることなので、ぜひやろう」と。その後、JALさん、ANAさんの人事の方にご連絡を差し上げたのが2020年7月の終わり頃です。
前川:コロナ禍で未曽有の経営難に陥り、雇用をいかに守るか苦慮されていたJALさん、ANAさんから相談があったわけではないんですね?
田中:まったくそういうことではないんです。私たちのほうからお声がけさせていただきました。ですから、この提案がどう受け取られるか若干不安はあったんですが、先方でも対策に苦慮されているところだったので、幸いにも「助かります」とのお返事をいただけました。そこからどんどん具体的な話を進めていって、2020年11月16日に出向者のみなさんの研修が始まったというところです。
前川:もちろん時間をかけていられない問題だというのもあるしょうが、それにしても非常にスピーディですね。
田中:社外の方からはそのように言われることも多いのですが、社内ではもっと早くできただろうと言われています(苦笑)。そういう感覚の会社なんです。
前川:とはいえ、ノジマさんの現場で働いてもらうわけですから、人材ニーズがありますよね?年齢層や職種などについて、こういう人が欲しいというオーダーはしたのですか?
田中:していません。こちらからは、こういうエリアでこういう仕事があるということを提示して、先方でご検討いただいきました。ただし、当社は接客の仕事が当然ながら多いですし、JALさん、ANAさんにも地上職、CAという接客のプロがたくさんいますから、そのあたりは自然と需要と供給が一致したという感じですね。とはいえ、空港の荷物関連のお仕事を担当されていた方もいらっしゃいますから、そうした方々は当社の鶴見にある物流センターで受け入れたりもしています。
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