マニュアルなし。お客様のためにできることを各自が考える

前川:現時点(インタビュー時:2020年12月25日)では、それぞれ何名を受け入れているのですか?
田中:JALグループから125名、ANAグループから32名ですね。150名以上と規模も大きいので、ホテルに場所を借りて研修オリエンテーションを行いました。突然のことで出向者のみなさんも不安でしょうから、研修初日には社長の野島からみなさんを激励する言葉を贈りました。こちらとしても不安はあったんです。みなさんどういう気持ちでこの場にいるのかというのを考えると……。それでも、研修後のアンケートでは、「決してこの出向をネガティブにはとらえていません」といったことを書いてくださっている方もいたので少しホッとしました。とはいえ、出向者のみなさんも手探りですし、送り出す側のJALさん、ANAさんも手探り、私たちも手探りという状況。動きながら考えているといったところですね。
前川:集合研修ではどのようなことを行ったのですか?
田中:ノジマの考え方を理解してもらうことからスタートして、あとは部門別の製品の説明などですね。新卒社員の研修だと通常は1カ月程度かけているのですが、今回はそこまでは時間が取れないので1週間強でやりました。みなさんが驚かれたのは当社にマニュアルがないこと。対お客様というところに関しては考え方のガイドラインはありますが、それに基づいて自分がいちばんいいと思うことを自分たちで考えてやってほしいと伝えています。それは今回の出向者に限らずですが。ノジマの考え方をベースにしつつ、JALさん、ANAさんで培ってきた考え方、やり方を自由に組み合わせていただければと考えています。
前川:もうみなさん現場に配属されていらっしゃるわけですが、異業種での仕事にスムーズに対応されていらっしゃいますか?
田中:もちろん個人差はありますが、既に既存の社員と同様に接客・販売を行っている方も大勢いらっしゃいますね。扱う商品・サービスが違うだけで、もともとみなさん高いレベルの接遇スキルはお持ちなので。
前川:そのようにバックボーンやカルチャーが違う人たちが来て、しかもマニュアルもないなかで活躍できる理由は何なのでしょうか?
田中:一つには、みなさんが前向きに頑張ってくれているというということが挙げられます。もう一つは、当社の販売方針ですね。お客様のほうを向いて、お客様のニーズに合う最適な商品を提案するコンサルティングセールスを行っているので、その根本の考え方はバックボーンの違う方でも受け入れやすいのではないでしょうか。あとは、自社採用の社員と同様に、現場ではトレーナーがつくことも大きいと思います。未経験者に指導することには当社の社員は慣れていますから。
前川:現場の上司・先輩がしっかりと教えるというのは重要ですね。しかし、いずれいなくなってしまう出向者の方を忙しい現場社員が時間と労力を割いて指導することに抵抗を感じる声はなかったのですか?
田中:当社では年2回、全店長や部門のリーダーが集まる方針発表会を行っているのですが、10月の発表会で今回の出向の件を私から話しました。「多少不満も出るかもしれない」と考えていたのですが、後のアンケートをみると、反対する人が一人もいませんでした。むしろそれはいいことだと賛成する声もあり、社会貢献の意識が組織全体に浸透していることを改めて感じて、私自身感動してしまいました。
前川:素敵なエピソードですね。出向者の方は人の足りない店舗などに重点的に配属したのですか?
田中:人が足りている・足りていないということは優先的には考慮せず、育成環境がいいところに配属することを意識しました。そもそも人が足りていないから出向者を受け入れたわけではありませんから。ただし、コロナ禍をきっかけに来期以降、新規出店や事業拡大のアクセルをさらに踏もうと予定しているので、通常採用プラスオンで一時的に人が増えることに関してはまったく問題だとは考えていません。
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