JAL、ANAの出向者受け入れも社会貢献!長期的視野に立った経営が多様な人材がチャレンジし、活躍するカルチャーを醸成する/(株)ノジマ 取締役兼執行役人事総務部長 田中義幸氏《後編》

業務効率化・生産性向上の気運が高まり、働く人たちの多様化も進む現在。急速に変化する社会環境のなか、企業ではどのように人を育てていくべきなのでしょうか?本連載では、人材育成企業FeelWorks代表取締役の前川孝雄が、先進的な人材育成の取り組みをしている企業のトップと「これからの人材育成」をテーマに対談していきます。今回はコロナ禍で苦しむ航空業界からの出向者受け入れが話題となった株式会社ノジマの取締役兼執行役人事総務部長 田中義幸氏に同社の経営哲学と人材育成についてお話をお聞きしました。

メーカーからの派遣に頼らず「自前主義」を貫く

前川:もう一つ、メーカーから派遣される販売員(ヘルパー)を使わないとことも御社の大きな特徴ですね。家電量販店で複数メーカーの商品の比較検討を相談した販売員が、特定のメーカーの人とわかり戸惑った消費者も少なくないのではないでしょうか。そんな中で顧客に寄り添った正しい決断です。とはいえ、経営観点からは、人件費などコストを考えると二の足を踏むようにも思います。

田中:廃止したのは2005年頃だったと思います。家電量販店は昔からの業界のならわしで、メーカーからヘルパーが派遣されるのが一般的です。量販店としては、人件費はメーカー持ちですし、採用活動も労務管理もしなくていいので、お金の論理だけで言えばメリットは大きい。ただし、新店オープンの際など、ノジマのことをよく理解していないヘルパーばかりになってしまいますし、何よりお客様の立場に立って考えると、自社製品を売ろうとするヘルパーに接客されることにメリットはありません。

そこで、販売スタッフは全員当社の従業員にして、先ほどもお話ししたコンサルティングセールスを徹底することにしたんです。もちろん人件費も教育の手間もかかりますが、接客業、サービス業を営む以上は、人への投資は惜しんではいけないと。販売スタッフに限らず、当社はコールセンターや物流センターもすべて自社の従業員です。

前川:これまでの経営戦略の教科書的には、自社のコア・コンピタンスは何かを絞り込み、アウトソースできるものはどんどん外に出して効率化を図ろう、そのほうが儲かるという論理がまかり通っていましたが、御社は真逆ですね。しかし、そうした自前主義を貫きながら業績も伸びているというのがすごいですね。

田中:2020年度上期の経常利益が大きく伸びたのはスルガ銀行を持ち分法会社にした影響ですが、それを除いても過去最高益でした。緊急事態宣言後、4、5月はノジマ本体だけで60店舗ほど閉店しましたが、開いている店舗にはお客様に来ていただけていましたし、巣ごもり需要、テレワークの拡大が大きな追い風になりましたね。当社はインバウンドに依存していなかったので、そこでマイナスの影響が小さかったというのもありますね。

前川:コロナ禍までの10年ほどは、家電量販店はインバウンド需要にシフトして好業績をあげていたところも多かったですよね。でも、御社はずっと地域のお客様を大事にしてきたから、あれだけインバウンドが盛り上がった好況期にも方針を変えて外国人観光客を取り込む戦略は採らなかったということですね。

田中:その通りです。なんでやらないんだとはよく言われましたが(笑)

前川:私も経営者のはしくれとして、お金儲けより社会貢献や顧客へのお役立ちを重要視するほうで、時折、社員のみんなからもう少し稼ぐことも考えましょうよと言われるほどですが(笑)。田中さんのお話を聞いていると、ノジマという会社の社会や顧客への貢献第一の経営姿勢は筋金入りですね。もちろん株主も尊重しなくてはいけない上場企業としては、結果も求められるわけで、一見非効率に見えても、しっかり業績を出されているところが評価される理由なのでしょう。次に育成についてお伺いします。ここまでのお話で御社に脈々とある精神、理念、イズムは理解できたのですが、それをどうやって社員に教育していくのでしょうか?

田中:方針発表会での意識共有が大きいと思います。発表会では社長、副社長、各部門長などが理念や目標について話すことに加え、優秀店長や活躍した販売員も壇上に上がって話をします。その場では表彰も行っていて、CEO賞は未来につながるアイデアを表彰しているんです。それもカルチャーの浸透には大きく影響していると思います。

当社は「良いプロセスがあって、初めて良いパフォーマンスがある」と考えているので、数字を追いかけるのではなく、「お客様の立場に立って、会社をよくするために何ができるか」ということをみんなに考えてほしい。アイデアを表彰するのはそういう会社としての思いを伝えるためなんです。

前川:どのようなアイデアが出てくるのですか。

田中:例えば、お客様にわかりやすく商品説明するためのツールなどですね。新入社員のアイデアが評価され、全店舗で導入されたこともあります。

方針発表会以外では、社内報も意識を浸透させるツールになっています。今どきは、社内報もPDFをネット上で共有すればコストも抑えられるので一般的ですが、当社は頑なに紙の社内報を発行しています(笑)。従業員の自宅に郵送しているので、従業員の家族が手にして目を通すことも期待しているんです。

さらに、社長がノジマの考え方をまとめた『ノジマウェイ』という本(非売品)があって、従業員には入社したら全員に読んでもらっています。アルバイト、パートの方も今回のような出向者の方も同様です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

人材育成の専門家集団(株)FeelWorksグループ創業者。兵庫県生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て2008年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、独自開発した「上司力研修」「50代からの働き方研修」、eラーニング「新入社員のはたらく心得」などで400社以上を支援している。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。一般社団法人企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員なども兼職。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『上司の9割は部下の成長に無関心』(PHP研究所)、『年上の部下とうまくつきあう9つのルール』(ダイヤモンド社)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『もう、転職はさせない!一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)など30冊。最新刊『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)は、発売2カ月で4刷とベストセラーとなっている。YouTube「FeelWorksチャンネル」で働き方のヒント発信中▶https://www.youtube.com/channel/UCQfltGZFasnuK0BWQA8BSjg/