ソーシャルビジネスの担い手の葛藤
日本でも、そうした志のある事業活動に挑む企業、若手起業家が生まれ活躍し始めています。私が注目する企業の1つに、株式会社ユーグレナがあります。同社は「人と地球を健康にする」を経営理念に、「バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする」というビジョンと、「ミドリムシが地球を救う」のスローガンのもとに、世界の食糧問題と環境問題の解決に向けた事業に取り組んでいます。
同社の代表取締役・出雲充氏は、18歳でバングラデシュにインターン留学し、ムハマド・ユヌス氏のもとで働いたことで人生観が大きく変わったといいます。社会課題を解決するビジネスに就きたいという思いを強くし、東京三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)で金融業を経験した後に、東大でミドリムシの培養研究に打ち込みます。そして、栄養価が高く廉価で製造・販売可能な食品を開発しました。そこに大手商社の支援を得て、株式上場まで果たしています。
ところが同社の株価は低迷し続けています。出雲氏ら経営幹部は、株主総会で同社の使命は世界の貧困下にある子どもたちを救うことであり、収益を株主配当より設備投資や研究開発に優先配分したいと訴えます。しかし、株主からの強い支持は得られていません。資本主義の仕組みの中で株式上場したことで、試練を抱えざる得なくなったようにも見えます。そこで、出雲氏は別途ジャパン・アクション・タンク (JAT)を設立し、ソーシャルビジネスの普及活動に取り組み始めました。
社会課題に立ち向かう若き起業家たち
噴出する社会課題の解決に対して資本主義は不完全であり、機能しきれていません。しかしそのなかにも、出雲氏のように果敢に立ち上がる起業家は続々と出てきています。
ユヌス氏に啓発され立ち上ったグラミン日本では、母子世帯貧困率が50%を超え世界的にも突出する日本のシングルマザーへの融資事業を始めています。NPO法人フローレンスは、ITベンチャーの経営者だった駒崎弘樹氏が立ち上げたもので、病児保育をはじめ、待機児童、障害児保育、赤ちゃんの虐待死などの社会問題の解決に取り組み、社会的な影響力も持ち始めています。また、貧困家庭の学習支援に挑むNPO法人キッズドアは、代表の渡辺由美子氏がイギリスで暮らしていた際、外国人家庭や貧しい家庭の子どもたちも分け隔てなく、地域と学校と父母が協力して育てる社会のしくみに感動した経験から、帰国後に立ち上げたものです。日本で7人に1人もいるといわれる、貧困状態にある子どもたちの育成に大きな成果をあげています。
こうした動きは、先述の世界各地で声を上げ始めた次世代リーダーの活躍とも共通し、多くの共感者を得ながら未来に希望をつなぐものです。
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